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アンドロイドが人間のオーケストラ伴奏で歌う、渋谷慶一郎の新作モノ・オペラ『Scary Beauty(スケアリー・ビューティ)』初公開

9月30日と10月1日の2日間、オーストラリアの都市アデレードで開催されるアートフェスティバル「オズアジア・フェスティバル」にて、渋谷慶一郎が作曲、指揮、ピアノを担当し、アンドロイドのソロ・ボーカリストとオーケストラの共演による新作『Scary Beauty』のプロトタイプ上演が行われた。渋谷としては、ボーカロイド・オペラ『THE END』(2012〜)以来、5年ぶりとなる、待望の新作オペラ作品の発表となる。

『Scary Beauty』(「不気味な美しさ」の意)は、世界的なロボット研究者である石黒浩氏によって開発され、複雑系研究者の池上高志氏との共同研究より人間に近い運動の自由度を獲得したヒューマノイド・アンドロイド「Skelton (スケルトン)」が、人間のオーケストラ演奏をバックに、歌い演じる新作モノ・オペラである。

楽曲は、コラージュされたテキストによる3曲からなる。これらのテキストは、人類が絶滅した後の地上でアンドロイドが歌い続ける奇妙な情景を想定して選ばれている。男性でも女性でもない中性的な存在であるアンドロイドが、コンピュータで生成された人工合成音声で、10人編成のクラシカルな室内オーケストラと共演する形で歌っていく。

また、アンドロイドの衣装をデザイナー・阿倍千登勢を擁する世界的なファッションブランド、sacai(サカイ)が担当することも大きな注目を集めている。

まるで人間のような滑らかな動きから人間ではありえない奇妙な動きへ。人間の声では出せない奇妙な音声で歌い演じるアンドロイドは我々に何を感じさせ、考えさせるのだろうか。ここには様々な想像を超えた要素の共存とコントラストが混在しており、聴衆は恐怖と感動の振幅を体験することになる。

ソロ・ヴォーカルを担当するSkeltonの動作、運動は事前にプログラムされたものではなく、オーケストラの演奏に反応してリアルタイムで生成される。生成には、我々の脳内のニューロンを模したモデルから構成されたスパイキングニューラルネットワーク(Spiking neural network)を用いている。ニューラルネットワークの出力は、アンドロイドの「ふるまい」として表現され、それは周期的なものからカオティックなものまで多様なものとなるが、それらのトリガー(きっかけ)は人間のオーケストラによってもたらされる。つまりこれはアンドロイドと人間による、今までに存在しえなかったアンサンブルによる演奏といえるだろう。

共演オーケストラは、オーストラリアの最も注目される現代音楽アンサンブルとして領域横断的な幅広い活動を展開するAustralian Art Orchestra (AAO:オーストラリアン・アート・オーケストラ)。作曲と指揮、ピアノを渋谷慶一郎が担当する。

舞台演出は照明を藤本隆之が、映像を涌井智仁が担当。LEDを駆使した照明と舞台背後の2面大型スクリーン上にリアルタイム中継映像とあらかじめ制作、編集された映像が再構成されプロジェクションされる。

また10月3日、4日には、2012年の初演以来、世界中で公演を重ねているボーカロイド・オペラ『THE END』も同フェスティバルで披露されることが決定しており、渋谷を中心とした両公演はフェスティバルのメインアクトとなっている。(同フェスティバルは毎年オーストラリアとアジアの文化交流のためのカルチャー・フェスティバルで、3週間にわたり、映画、ダンス、エキシビションを楽しむことができる。)